SS7 卵と鶏の口論は終わるのか否か
「卵だね、絶対そうだ!」
「違うっての。鶏の方だ! 譲らないからなここは!」
「いーや、卵だよッ!」
「違う、鶏だッ!」
昼時の食堂、それもど真ん中の席で彼らはかれこれ十分以上の間言い争っていた。彼らの目の前には本日のオススメメニューである、彼らの昼食が湯気を立てている。
いつものことではあるが、必然的に、非常に今の彼らは目立つ。だが、彼らはそれを全く気にしない。――というか、そんなことを考えている余裕はなさそうであるが。
初めは彼ら二人の横で一緒に昼食を取っていた友人達も、早々に非難して遠巻きに眺める傍観者と化していた。
――ちなみにその判断は正しい。
「卵だって言ってんじゃん!」
片方がテーブルに両手を叩き付けながら立ち上がり、叫べば。
「だから、鶏だろうが!」
もう片方は椅子を蹴倒しながら立ち上がり、反論する。
熱くなった彼らには回りなんぞ見えてはいない。そばにいたって、おちおち食事も満足に取れないのだ。
だがしかし、いったい何でこうも言い争っているのかと言えば――。
二人は同時に今日の昼食を指差して言う。
「親子丼のメインは卵だ!」
「親鳥の方だ!」
※本日は「俺」こと語り手が熱くなり過ぎているため、三人称でお届けいたしました。
SS8 宇宙人来襲……?
俺は別に、夢見がちなロマンティストというわけじゃ、ない。
だからって、ガッチンゴッチンの石頭で目の前の現実しか認めない、というわけでもない。
「おーい。何そこボサッと突っ立ってんの! ほら、手伝う手伝う!」
――だがしかし。
人には許容範囲というものがあるわけで、いや、確かに自分は超常現象研究部に(不本意ながらも)所属しているのだから――いやでも今時コレは――特にこの黒い――。
「ほら! 早くコレ着てよ。もー、早くしなきゃ俺らだけで始めるぞー?」
――是非、そうして欲しい。
でも、ヤツが本気でそんなことを言っている筈がない。勿論、俺も巻き込む気満々だ。ほら、今だって笑顔でこの黒い布を押し付けてくるではないか。
「……あんま気乗りしないんだけどなー……」
「そぉんなこと言わないの! 皆もう待ってるんだよ!」
「いや、でも……」
「早く早く! きっと似合うって!」
「似合っても嬉しくな……」
「何か言った?」
「いや別に」
俺は無理やり押し付けられた黒い布の塊を広げ見て、そのあとそれと同じモノを当然のごとく身に纏っているヤツの方を見やり、そして一度大きく溜息を吐いた。
何と言えばいいんだ。
ヤツに渡されたのは、真っ黒なよく言えばボディースーツとでも言えばいいんだろうか、ご丁寧に頭に被るフード部分まである――まあ所謂、全身タイツってやつだ。ちなみに頭のてっぺんには、金属製らしいツノまである。
――あ、コレどっかで見たことある。なんだっけな、なんかのアニメかゲームで……そうそう、確かロボ○ボ団。そういえば昔、はやったよなぁメ○ロット――。
「ハイハイ、その服来たんなら現実逃避してないでこっち来てよ」
――そして俺は腕を引っ張られ、グラウンドに描かれた奇妙なサークルの前に立たされる。
そして、叫ぶのだ。
「「「「「宇宙人よ、我らが前に降りたまえ!!」」」」」
SS9 春の休戦協定
「先輩も卒業しちゃったし、今の超常現象研究部員は何人?」
「五人、だな」
「来年、俺らが卒業したらどう?」
「……一人」
「……存続の危機、だよね」
確かに、今までも、そして多分これからもこの部は弱小のままだろうが、さすがに部員一名というのは存続の危機だ。
俺としては、この部には何の未練も愛着もないわけで、なくなってしまおうが別に構わないといえば構わない。というかむしろ、俺のいる間に潰れて欲しいくらいだ。これでもそれなりに伝統というか歴史があるらしいが、はっきり言ってどうでもいい。
――そもそも、この悪友こと幼馴染が俺を引っ張って、強引にこの部の活動をさせていなかったのならば、また意見も違ったのだろうが。
だが、やはり後輩はかわいいのだ。
こんな部活に嬉々として入って、摩訶不思議な活動をしている時点でもう既に普通とは言い難いが、この部活の、延いては俺のたった一人の後輩だったりするのだ。
彼の代でこの部がなくなってしまうのは忍びない、気がする。
――まあ、仕方ない。ここは一時休戦といこうか。
「入学式当日から、新入生勧誘しなきゃな」
「そうだね。ポスターも作るかなぁ」
まあ、部員が増えれば俺の負担も減るし。――などと、負け惜しみじみたことを胸中で呟いたのは秘密だ。