SS4 真冬の論争、負け戦。
「よっしゃ! ここ行こう、決定!」
「……えぇー……」
――理不尽だ。どう考えても、これはちょっと一方的過ぎやしないか。
本日の決定、部活の合宿先、海。――ただし、現在冬真っ盛り。
「真冬に海なんか行ってどーすんだよッ!」
だが、ヤツは聞く耳なんか持ってはいなかった。まあ、仕方ない。長い付き合いだ、これもわかっていたこと。いい加減、この腐れ縁もマジメに切りたくなってきたが。
つか、誰だ。こんなヤツを部長にしたのは!
「何が不満なのさー。だってビーチ丸々一個俺らで貸切! 夏ならあり得ないよ? こんな絶好のスポット貸し切るなんてさ」
「……お前は寒中水泳でもしたいのか」
「まさかぁ! んなワケないっしょ。体系部でもないし」
そうだ、本来ならば俺達の所属する部に、合宿なんぞ必要はない。
それなのになぜ、コイツが海へ合宿に行くと言い張るのかといえば。
「海といえば、心霊スポットの基本じゃん!」
ただ、これに尽きる。
「お前はさ、海と聞いて、超常現象研究部員としての血が沸き立たないの!? やっぱ夏より冬の方が雰囲気出ると思わない?」
そんなキラキラした顔で迫られても、俺は嫌だ。
……そもそも、俺はこの部に入るつもりなんて、これっぽっちもなかったのだ。どっかの誰かに、部員数確保のために涙目で嘆願されなければ。
「とにかく、俺は嫌だか――」
「みんなぁー! 海に合宿行くぞー!!」
本当にコイツは何も聞いてはいなかった。
で――部室のドアを開け放ち、ヤツが叫んだ先の反応はといえば。
「マジで!? やりぃ! 真冬の海で心霊合宿だろ? もうUFOの研究には飽きたぜ」
「そりゃいいな。今度こそ心霊写真撮るか!」
「俺、この前新しくデジカメ買ったんスよ。幽霊って、デジカメにも写りますかね?」
そういえば、ここの部員どもは皆こんな奴らだったのを忘れていた。
賛成多数で、俺の負け。恐怖の心霊合宿、開催決定。
――求む、常識人。
SS5 真冬の論争、勝ち戦。
――何というか。
こればっかりは俺もあきれ返るしかない。
「ねえ、頼む! お願いします! この通りだから見せて!」
「……お前なぁ」
今俺の目の前で、半泣き状態で迫っているこのアホは、真冬の心霊合宿にかまけて冬休み課題を一つも――そう、一つもしていなかったらしい。
ちなみに、始業式は明日――ではなく、昨日だ。もう今更「宿題写させてください」とかいう状況ではないと思う。
「ウチの鬼担任が脅すんだよぅ。卒業したくないんだな? ……って!」
「それにしたって、何で今更」
「え、だってさ、今までずっと合宿の写真と睨めっこしてたんですー。あ! そうだ、聞けよ、あったんだぞ心霊写真!」
「どうせ光の反射とかだろ」
「……ぐ、鋭いね。……って、それはいいんだよ、頼むから写させてください!」
確か、俺の記憶が正しければ、夏にも同じようなやり取りがあったような気がする。
その前の春も同様。
俺は溜息を一つ吐いて。
「…………駄目。たまには自分でやりなさい」
満面の笑みで突っぱねてやった。
時にはこんなのもありだろう。いつもいつも負けっぱなしなのは気にくわん。
「そんなぁ……」
たまには俺の苦労を知りやがれ。
SS6 昼時の闘争リターンズ
燃え上がる闘志、緊迫する空気――闘いの時は、再びここにやってきた。
「……再戦だ……!」
「ふふん、かかってくるがいい!」
なぜだか集まってきた大勢の観衆の中、俺達の真剣勝負の火蓋は今、切って落とされる。
「行くぞ!」
「来い!」
「「――最初はグー! ジャンケンポンッ!!」」
「……」
「…………」
「――はー、やっぱ人の金で食う飯ほど、おいしいものはないねー」
「畜生、何でお前そんなにジャンケン強いんだよ……」
「お前が弱すぎなの」
「うぅぅ……」
勝利の女神はどうやら俺が嫌いらしかった。なぜだか知らんが、俺の勝率の方が一方的に悪い。
「うがー! 次こそは勝つからな!」
「やってみなよ。まあ、無理だろうけど?」
「何を小癪な!」
「アイツもいい加減、あきらめればいいのにな。ジャンケン弱ぇんだからさー」
「いいんじゃないんスか? どーせ、一番安いパン一個なんでしょ」
「本人が何も疑問に思ってないんだから、別に構わんだろう。パン一個だし」
――二人が食堂前で騒いでいる頃。超常現象研究部のメンツが、揃ってこんな会話を交わしていたという。