SS1 昼時の闘争

 
「本当にこれでいいわけ?」
 そいつは、ただ、それだけを訊いた。
「いい。俺が決めたんだから」
 不満が無いと言えば嘘になる。けれど、自分で決めたことだ。
「じゃあ……」
 
 
「「……最初はグー!! ジャンケンポンッ!」」
「……ッ!」
 
 
 俺にはその後数分間の記憶が無い。しかし、起きた時の状況からして、倒れたのは間違いなかった。我ながら、この神経系の弱さはどうにかならないものか。
「大丈夫? ……なら、約束どーり……」
 仕方ない。賭けを持ち掛けたのは俺の方だ。ここは清く負けを認めよう。
 ――痛いが。
「……わかった。俺の、負けだ……奢るさ、奢るよっ! 昼飯一週間!」
「さっすがぁ!」
 ――痛い、出費が。
 薄っぺらい財布を汚している染みが涙の跡に見えて、俺は財布に申し訳なくなった。

SS2 昼時の攻防

 
 それは、世にも奇妙な光景だった――だろう。傍から見れば。
「なあ、おい……」
「ん、何?」
 確かに俺はついさっきまで、幸せに惰眠を貪っていた筈だ。程好く木漏れ日の差し込む穴場中の穴場、中庭の隅のベンチで、空腹を訴える我が腹を宥める為に。
「お前、何で俺の腹の上に座ってんだよッ!?」
 この疑問は当然のものの筈だ。いや、この場合俺がコイツを落としたとしても、誰も文句を言えるわけがない。だいたい普通、疑問を声にする前に絶対落とす筈だと思う。俺はしなかったが。
「いや、あまりに幸せそうに寝てるから」
 何だその理屈は。ヘラリと言い切りやがって。
 俺は今度こそ思いっきりヤツを撥ね上げて起き上がった。
「痛ッ! 何すんのさ!」
「何するじゃないわボケッ!」
 何だか本気で腹が立ってきた。
 ただでさえ、こないだの勝負に負けて昼飯奢り週間真っ最中だというのに。おかげで俺の財布事情は火の車だ。ああ、本当に腹が立つ!
「ったく、何の用だよ!」
 ――しかしまあ、これを訊いた俺が馬鹿だった。
「何って、お昼ご飯!」
「はぁ? さっき食わしてやったろうが」
「デザートがまだじゃん! もー、お前ったら俺が食ってる間にどっか行っちゃうし」
 ――そうだ、すかっり忘れていた。
 コイツは食に関しては恐ろしく意地汚いのを。デザートくらいどうだっていいだろうが!
「さあさ、早く行こう! 昼休み終わるぞ!」
 ああもう、勝てない。
 次の勝負こそはコイツに勝って、デザートも飲み物も全部奢らしてやると堅く誓って俺は立ち上がった。
 ――なんだかもう、色々虚しい。

SS3 放課後の争奪戦

 
 今度こそは、譲れない。そうだ、ここで負けるわけにはいかない。
 なんにしろここの所最近、黒星続きだ。ここらで汚名返上といかねば、俺の名が廃る!
「いいか? 一本勝負だからな?」
「わかってるって」
 ヤツはいつものごとくヘラッとした顔で笑ったままだ。
 腹が立つくらい余裕そうだな、おい……。
 ――まあいい。
 今日こそは……!
 
「「最初はグー、ジャンケンポン!!」」
 
「あー……」
「むむ……、アイコだねぇ……」
 実はアイコだった時には特別ルールがあったりする。
「げぇッ、何が楽しくてお前と二人、半分コなんてせにゃならんのだ……」
「しょうがないだろー? はいはーい、半分コ☆」
「ヤメレ!!」
 
 ――本日の戦利品、おやつに食べたシュークリーム(残り一個)の二分の一。
 文字通り、半分コするハメになった。
 
 ――なんかもう悔しいのか悲しいのか、虚しいのかすらわからない。
 

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