秋には焼き芋を

 ――甘い話には、乗るもんじゃない。
 
 秋といえば、食欲の秋。スポーツも読書も芸術でもいいが、ここはやはり食を取ってしまうのが悲しきかな、俺達三人である。まあ育ち盛り――もうそろそろ打ち止めな気もするが――の男子なんぞこんなもんだ。
 
「千秋、国弘、落ち葉掃き終わった?」
「……ぜんっぜん終わんね。お前らは?」
「向こうは終わった」
「うわ、マジ? はやいよ国弘!」
「お前らとは年季が違うからな」
「うおおお、かっけぇけど腹立つなその言いぐさ!」
「まあ自分ちだもんねぇ」
 
 やっぱり秋になると焼き芋が食いたい。なぜだか知らんが、とにかく食いたくなるのだ。たぶん、日本人の血とかなんかそんなのだと思うことにしている。
 だからこうしてせっせと落ち葉を掻き集めている、といえば微笑ましく聞こえるかもしれないが、実際にはあまり楽しそうな顔はしていない。
 ここがどこかといえば、お馴染み国弘宅本荘寺。ちなみに、国弘の両親は揃って旅行へと出かけているそうで、ここにいるのは俺達三人だけだった。そして何をしているのかと言えば、三人で本堂と庭の掃除である。
 ――要は、国弘に嵌められて雑用を手伝っているのだ。
 国弘に「焼き芋を食いたくはないか?」と誘われたので、腹を空かせた俺と智也はほいほいと二つ返事で付いて来てしまったのだが、いざ蓋を開けてみれば、というやつである。
 まあ、この世のおいしい話なんてものには、どれもこれも裏があるものだ。それでもこの掃き掃除が一段落つけば、念願の焼き芋は食えるのだけれど。それにしても、もう既に掃除を始めてから数時間経っている。そろそろ、褒美をもらってもいいんじゃなかろうか。
 
 見事に赤や黄色に色付く山々は美しいし、絨毯のように敷き詰められた落ち葉も、見る分には――まあ、綺麗だ。
 ただし、掃除をしなければならないとなると、途端に鬱陶しくなるのがこいつらだ。掃いても掃いても舞い落ちてくる落ち葉には、段々と嫌気がさしてくるし、中庭に植わった大きな銀杏の木にはそろそろ殺意を覚えそうだ。
 それでも段々と赤や黄色の山は大きくなり、地面の茶色やコンクリの色が顔を出してきた。
 終わりが見えれば、俄然やる気も違ってくるというもの。
 そこからの作業速度はかなり速かった。
 
「よっしゃ、こっちも終わったよ!」
 ここでうっかりハイタッチをかますほどテンションはハイになっていて、後から思えばまあ、疲れていたんだろうなと思う。
 ああ――だが、ここでぬか喜びをしなければ、よかった。
 悲劇が起ったのは、にこにこと嬉しそうにしながら智也が叫んだその時だった。
 一陣の風が吹き抜け、俺と智也が必死で築いた落ち葉の山をいともあっさり崩していってくれた。
「「あああああッ!!」」
「あぁ……ちんたらやっているから……」
 ちなみに国弘の集めた落ち葉は吹き飛ばなかった。既にビッグサイズのビニール袋にまとめられていたからだ。――どうにも、このあたりに慣れと言うか、経験と言う名の差を感じるのはどうしようもないが、やはり悔しい。
 肩を落として俺と智也は大げさなまでに嘆いた。――いいかげん、腹が減っているのである。
 そんな俺達の肩に国弘は手を乗せ、慰めるかのようにしながらも、そこへは鬼か悪魔のような宣告がされた。
 
「それ、やり直しだから。ちなみに、全部いったん袋にまとめるまでは、焚き火はしないからな」

 ――その後、俺達が念願の焼き芋を口にすることができたのは、これより更に一時間ほど後のことになる。
 労働の末に食したそれは、甘くそしてどこかほろ苦い秋の味がした。

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