裏切りのスイッチ

「どうして……! どうしてだ、主! 私はただ貴方の……」
 もう、この声すら届かないと言うのか。聞き届けてはくれないのか。
 私の敬愛する――してきた――彼は、ただ冷たく私を見下ろすだけで、何も言いはしなかった。
「――主! あるじ!!」
 何度呼びかけても、返事は、ない。返って来るのは、ただ、凍えるような冷めた瞳と、こちらが竦み上がるような威圧感だけ。
「こちらだ! 引き捕えよ!」
 ああ、私を捕えんとする下級天使達の怒号が聞こえる。
 ――私が、叛逆者、だと?
 馬鹿馬鹿しい。そんな筈、ないのに。
 私は貴方の忠実なる僕。裏切ることなど――。
 
(本当に?)
 
(本当だ! 私は神に叛いてなどいない!!)
 
 ――頭の奥で悪魔の声がする。
 悪魔の声が私を苛む。
 随分前から時たま聞こえていたこの声を、最近頻繁に耳にするようになった。
 ――何かがおかしいと気付いたのは、いったいいつだっただろうか。
 
(私が、敬愛する彼を裏切ることなんてするものか!)
 
(――でも、俺様はアイツなんて嫌いだよ)
 
 天使達に引き摺られ、彼の御前から抵抗空しく遠ざかって行く最中、カチリとパズルのピースが嵌るような感覚がした。
 ――そして私は青褪める。
 
(アイツなんか嫌いだ。だから、裏切ってやったよ!! なあ、ルシフェル?)
 
(――サタン……!!)
 
 
 ――そして私は墜ちて行く。
 美しく輝いていた翼は闇色となり、そしてそのまま留まることなく墜ちて行く。
 
「はは、あはははははは……ッ!!」
 
 ――木霊する、狂ったような笑いはもう、どちらのものか――悪魔か、私か――わからない。
 哀しいのか、悔しいのか、嬉しいのか、もう何もわからない。
 だから、無我夢中で、何かに縋りたくて、私は宙に手を伸ばした――。
 
 
 
 
 ――そして、その手を取ったのは赤い女王だった。

 
 
 
これも一応、ウチのアリスの話。(の、一部。)
ルシフェル(サタン)は、まだまだ出番は先だけど、設定だけは無駄にあります。(笑)

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