序幕
少女はずっとずっと一人ぼっちでした。
親も、兄弟も、友達もいませんでした。彼女の周りには誰もいなかったのです。
あるとき、通りかかった旅人がかわいそうに思い、少女を同じ姿をした仲間達がいる所へと連れて行ってあげました。
少女はとても喜んで旅人にお礼を言って別れました。
しかし、少女は初めのうちこそ仲間がいたことが嬉しくてたまらなかったのですが、暫くして、とあることに気付きました。
それは、少女と本当に「同じ姿」をした仲間が一人もいない、ということでした。
他の仲間達にはそれぞれ瓜二つといわんばかりにそっくりな者達がいるのに対し、少女にはそんな仲間はいなかったのです。
少女は気になって、一人の仲間にそのことを訊いてみました。
すると、その仲間はこう答えました。
「それは、僕達は皆ここで生まれ同じ血を引く「家族」だからね。君は別の所から来たから」
それを聞いて、少女は寂しくなりました。
せっかく仲間達と会えたのに、少女はそこでも「一人」だったのです。
少女が泣いていると、そこにまたあの旅人が通りかかりました。
事情を聞いた旅人は少女をまた違う所へと連れて行ってくれました。
「残念だが、私は君と全く同じ姿をしたモノ達とは会ったことがないんだ。だから、「不思議の国」へ連れて行ってあげよう。あの国には何でもある。もしかしたら「家族」に会えるかもしれない」
そう、言って。
そうして、少女は不思議の国へとやって来たのでした。
旅人はまた少女と同じ姿の仲間達が集まる場所へと少女を送ってくれましたが、やはりそこにも少女とまったく同じ姿をした――「家族」はいませんでした。
仕方がないので、少女は不思議の国の中をもっとよく探してみようと思い立ったのですが、ここで一つ困ったことがありました。
それは、不思議の国の住人には少女の姿が「見えない」のです。
誰かに何かを訊こうにも、少女の姿が相手に「認識されていない」のです。
少女はここでも一人ぼっちであり、ついにとある魔法をこの国にかけたのでした。
実は少女の「家族」が見つからないのも、少女の姿が認識されないのも、理由がありました。
――それは、少女が「 」だったからです。
そうだ、少女は誰かに気付いて欲しかった。だから、不思議の国に魔法をかけたんだ。
きっと、外の世界の人なら、見つけてくれると思ったから。
「――そろそろ物語を始める時間かな。行かなくちゃ……アリスの所へ」
彼はそう呟いて立ち上がり、金に輝く懐中時計を手にした。
――どこからともなく、本の表紙を開く音が聞こえた。