硝子越しの声

 それは、いつかの夢。記憶の海に紛れ、忘れかけていた夢でしかなかったのに。
 
 
「――、――――! ――ッ!」
 
 何? 何を言ってるんだよ?
 聞こえない。全然聞こえないんだ。
 もっと大きな声で言えよ。
 なあ、何をそんなに必死に言ってるのさ。
 頼む、もっと大きな声で喋って。
 
「――ろ、――む――せ! ――なッ!」
 
 まだ、何を言ってるかわかんないよ!
 どうしてだよ、何でこんな近くにいるのに聞こえないんだよ。
 どうして、どうして。
 どうしてお前、そんな泣きそうな顔してんだよ。
 どうしてお前の声が届かないんだ。
 どうして俺の声が届かないんだ。
 ――まるで、分厚いガラス越しみたいで――。
 
 
お き ろ 、 た の む め を さ ま せ !
 
死 ぬ な っ !
 
 
 ――え……?
 
 
 
 
 
 
「うわッ!」
 ――激しく自己主張する目覚し時計。窓から零れる朝の日差しが眩しい。
「……なんだ、夢かよ……」
 ベッドから起き上がり、ボーっとする頭を左右に振って夢の残滓を振り払う。
 その時は、それ以上は何も考えなかった。
 それはただの夢でしかなかったから。
 
 
 
 
 けど。
 
 
 
 
「危ない!!」
 
 そう、誰かが叫んだ時にはもう何もかも遅くて。
 何が起こったかなんて、わからない。俺にはもう知覚できない。
 ただ、いつかの夢と同じ言葉をアイツが言ったことだけが、最期の記憶に残った。
 
 
 
――起きろ、頼む目を覚ませ!
――――死ぬなッ!
 

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