そのさだめが尽きる日まで

ああ、我が愛しの可愛い人形。
発条仕掛けのその瞳を開けておくれ。
君の好きなオルゴールを鳴らそう。
だからはやく目を覚ましておくれ。
 
――なぜ、その箱の中にずっと横たわっているんだい?
――なぜ、紅い涙を流しているんだい?
 
 
 
そして男は、壊れた人形の壊れた螺子を狂ったように巻き続ける。
何度も、何度も。
彼はその人形が壊れていることに気付かない。
 
なぜなら、彼は知らなかったから。
彼は壊れたことがなかったから。
彼の記憶には「壊れる」ということが「記録」されていなかったから。
 
だから、彼は彼女がもう動かないことに気付かない。
 
 
彼は、自分が彼女と同じ自動人形(オートマタ)であることを、知らなかった。
 
 
彼らの創造主は疾うの昔に亡くなった。
だから、彼らはただ朽ちゆくことしかできないことを、彼は知らない。
 
 
 
――だから、彼は彼女の螺子を巻き続ける。
いつまでもいつまでも、彼が壊れるその日まで。
 

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